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2012年10月22日月曜日

冬のマリン


おしゃれに見えるということの条件の中に、
他人とは違ったものを着るという項目が、ひそかにあります。
他人とはちょっと違う格好をするだけで、
人目を引き、あ、おしゃれだなと思わせることができます。
この場合の「他人」とは、大多数の人、という意味です。

他人とは違ったものを着るためには、いくつかの方法が考えられます。
まず1つ目。
奇抜なデザインのものを選ぶ。
他人が着ないような、奇抜なデザイン、たとえば袖が4本あったり、
余計なところが膨らんでいたり、実用を完全に無視したような、
そういったデザイン、できれば有名デザイナーがデザインしたものを着る。
2つ目。
誰もが認めるおしゃれブランドの、それとわかるものを着る。
本当におしゃれかどうかはともかく、いわゆるロゴやブランド・マークが入った、
誰が見ても、あ、それ、○○だよね、とわかるものを着る。
3つ目。
デザインは何の変哲もない、しかも、有名デザイナーズ・ブランドのものでもないが、
その季節、ほかの人が着ないようなスタイルを、あえてする。

この3つのうち、 1つ目と2つ目は、お金が解決してくれます。
簡単と言えば簡単です。
お金だけの問題ですから。
では、お金がなくても他人とはちょっと違うスタイルにしたい場合、
どうしたらいいかという答えが3つ目です。
これはお金は別にかかりませんが、工夫とセンスが必要です。
そういう意味では、難易度は一番高い選択肢です。

この3つ目のスタイルとして、去年は「冬のホワイト」を取り上げました。
冬に真っ白いコートを着る人は少数派。
しかし、あえてそれを選択することで、おしゃれに見えるという方法です。

それと似たような方法で、冬のマリンがあります。
マリン、つまり海に関するスタイルは、どちらかというと、夏向きのものが多いです。
夏の湘南海岸にあんなに人がたくさんいたのに、
冬は閑散とするのと同じぐらい、
冬向きのマリン・ルックは、ぐっと少なくなります。
しかし、であるからこそ、冬のマリンはおしゃれに見えます。
みながこぞってマリン・ルックを取り入れる夏よりも、それは数段おしゃれ度が高いのです。

しかも、マリン・ルックというのは、案外、簡単に誰でも取り入れることが可能なスタイルです。
基本は、
紺色+白の2色、または紺、白、赤のトリコロールの3色で構成することです。
そして、この色の範囲を決して出ないようにして、
(靴とジュエリーは除きます)
そこにマリン・テイストのアイテムを加えます。
たとえば、ボーダー、ピーコート、アラン・ニット、デッキ・シューズ、セーラー・カラー、
水兵帽(船長さんがかぶるような帽子)などです。
それはほんの1点でも構いません。
けれども、厳格に色を絞ればマリン・ルックになります。
そして、全体のコーディネイトをする上で重要なのは、白をきかせること。
白い範囲があまりに小さいと、マリンにはなりません。
靴でもバッグでも帽子でもマフラーでも、白をきかせれば、それらしくなります。

一番簡単なのは、みんなが好きなボーダーのニットを取り入れることでしょう。
白と紺、あるいは白と赤のボーダーのニットを取り入れつつ、
全体の色数を絞る。
これだけで、立派なマリン・ルックです。

そして、この簡単なマリン・ルックですが、
実際、冬にやっている人は少数派です。
雑誌では見るけれども、本当にそういう格好をしている人は、ぐっと少ないと思います。
だからこそ、あえてするのが粋でおしゃれ、ということになるわけです。

確かに、世の中にはお金で解決できる問題がたくさんあります。
お金がたくさんあればそれで済むのに、と思うことも多々あるでしょう。
ファッションは、特にその傾向が強いです。
しかも、年々、その傾向は強まっています。

けれども、忘れないでください。
どんなにお金があったとしても、手に入れられないものもあるのです。
そして、お金で買えないものこそ、誰かに奪われることも、
劣化して捨てなくてはならなくなることもないのです。

ファッションは、そのための訓練をする場でもあります。
あえてお金で解決しない方法を選ぶことによって、
あなたの目に見えない口座に貯金がふえます。
その貯金の価値を、初めのころは気付かないでしょう。
けれども、数年たって過去を振り返ったとき、
ああ、あのときお金で解決しないでおいてよかったと思える日がきます。
それは誰にも奪えないもの、
誰にも真似できないもの、
欲しいと言われてもあげられないもの、
そして、あなたしか持っていないものです。

紺、白、赤をテーマカラ―としている方々は、今からどうやったら冬のマリンができるか、
考えてみてください。
それは、たとえば白いマフラーを付け足す、靴を白いスニーカーに変えるといったような、
簡単な方法かもしれません。
真冬の海岸線を散歩する、自分の姿が想像できたなら、
あなたのマリン・ルックもきっとうまくいくことでしょう。

追記:必ずしも紺色のアイテムを持っているとは限らないと思います。
その場合、紺を黒や濃い茶に変えてみても、変形マリン・ルックになります。
トリコロールがベストですが、そうでない場合、自分なりのマリン・ルックができないか、考えてみてください。

☆写真:「ベニスに死す」の ビョルン・アンドルセン。こんな姿を真冬に見たいわけよ。でも、こんな人はいません。