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2012年9月17日月曜日

ダウンコート、ダウンジャケット

スポーツ・ウエアから始まったダウンジャケットやダウンコートは、
小さな子どもからお年寄りまで、幅広い年代が着用するアイテムとなりました。
まず第一に暖かい、そして軽いというのが、これだけ広がった原因だと思います。
どんなに分厚いウールのコートを着ても実現することのなかった暖かさが、
ダウンを着ることにより、簡単に手に入れることができました。

最初にダウンジャケットをモードに進化させたのは、
私の記憶するところによると、90年代のヨウジ・ヤマモトだと思います。
ウールギャバで作られた、
その彫刻的なダウンジャケットは、今までのスポーツウエアのダウンジャケットの概念を覆すような、
そして、確かにそれまでは存在しなかった、新しいモードでした。
なぜそのことをはっきり覚えているかというと、
私の友達が、その紺色のウールギャバのダウンジャケットを、大枚はたいて買ったからです。
(もちろん、彼女のお給料の半分以上の額でした!)

90年代、いきなりモードの世界にあらわれたダウンジャケットでしたが、
なかなかその追随はあらわれませんでした。
そのため、多くの人は、モードの側に近づいたスポーツウエアとしてのダウンジャケットを着始めたと思います。
それから20年近くたって、やっと最近、おしゃれとしてのダウンジャケットやコートが出てくるようになりました。

しかし、それでもダウンジャケットやダウンコートをおしゃれに着るのは難しいです。
その一番の理由は、あのボリューム感。
まず、やせて見える、などということはありません。
また、コートの場合、ボリュームはすそのほうまで続くので、全体のバランスがとてもとりにくい。
ちょっと失敗すると、寝袋を着て歩いているようになってしまいます。
そしてもう一つの点は、誰もが似てしまうということ。
黒い腰下までのダウンジャケットなど、後ろ姿は男も女も変わりません。
では、どうしたらよいでしょうか。

私も、冬になり、街に出ると、
誰か素敵なダウンコートやダウンジャケットを着ていないかなと、
周りをチェックしながら歩くのですが、なかなか、これはというデザインのものに出会ったことがありません。
もともと、優れたデザインのダウンコートもジャケットもとても少ないのです。
けれども、あの軽さと暖かさは、一度知ってしまったら、手放せない。
そこで考えたのは、以下のとおりです。

まず最初に、優先順位を決めましょう。
防寒なのか、おしゃれ着なのか。
まず、防寒のためと割り切ったら、おしゃれには目をつぶる。
あたり一面の雪の中やスキー場、
誰もいない真夜中の街のようなところで、
おしゃれを最優先させることはありませんから、
その場合は、防寒第一に考えて、ダウンジャケットやコートを選ぶ。
そして、「暖かさ」が第一と決めたなら、その点は妥協しない。
そんなふうにして選ぶといいと思います。

次に、ダウンだけど、おしゃれに見えるためと決めたなら、
多少の機能性はあきらめる。
この丈だと、背中がちょっと寒いとか、ダウンの量が少ないとか、
おしゃれに見せるために、いろいろ欠点が出てきます。
けれども、「おしゃれに見せる」を最優先させるなら、そこはこだわらない。
この2つをどちらも望むと、結局、中途半端なものを買うことになってしまいます。

ダウンジャケットやコートをおしゃれに見せるために、まず気をつけるべきことは、
自分の身長とのバランスです。
日本の既製服の設定身長は163センチぐらいだと思います。
しかし、多くのダウンコートは、163センチの人がヒールの靴をはいて、初めてよいバランスがとれるようにデザインされているように思います。
そうなると、それより小さい身長で、フラットの靴をはくとなると、
もうそれだけでバランスは崩れます。
まず、試着するときは、冬用の靴とコートのバランスをチェックしましょう。
そのとき、下のほうにボリュームが出て、
何となく重たく感じるものは、あまりおしゃれには見えません。
いくらコートが軽くても、それだけで太って、重たそうに見えます。
特に、背の低い方は注意です。

また、ダウンジャケットやコートは、そのデザインをステッチをかけることで表現しています。
ステッチの入れ方によって、印象を変えているのです。
ステッチを入れることによって、ウエストを高くし、しぼることにより、
全体でAラインのシルエットを作っているものもあります。
そういったステッチの入っているものは、全体的にすっきり見えますし、
バランスもとりやすいでしょう。
ステッチがない場合でも、ウエストにベルトがついているものもあります。
ベルトつきダウンも、ボリュームを減らしますので、こちらもお勧めです。

最後に素材ですが、おしゃれ用として着るなら、
表地の素材の光り方にも注意してください。
サテンのような美しい輝きならよいですが、
ビニールのようだと、安っぽく見えます。
光り過ぎない適度な光沢のものを選びましょう。
その中でも、ウール素材(またはウールに似せたものなど)は、ダウンの中でも、都会的でおしゃれに見えるものです。
自分の身長にぴったり合うものが見つかったら、そちらを買うとよいでしょう。
割合、どこに着ていってもおかしくない、ウールのコートに劣らない品があるアウターだと思います。

着こなしですが、ダウンのボリュームが大きいほど、そのほかのインナーやボトムはコンパクトにしましょう。
逆に、ダウンベストや小さめのジャケットだったら、ボトムにボリュームスカートを持ってくることもできます。
とにかく、全体で一定のボリューム以上は作らないようにすること。
ある限度をこえると、とたんに太ってみえるので、注意してください。

実際のところ、ダウンジャケットやコートは、まだ発展する余地があると思います。
シルエットが大きいものに変化していくこの時期から、
デザインのバリエーションも広がっていくことでしょう。
まだまだ過渡期なので、今は練習段階です。
そしてもう少しデザインが洗練されていったら、それこそイブニングにもふさわしいような、
ゴージャスなダウンコートがあらわれるのではないかと思います。

軽さ、暖かさ、快適さ、
これらは人をリラックスさせます。
自分にぴったりのバランス、ボリューム、素材感のダウンが手に入ったら、
そのリラックス感も手に入れられるのです。
重いコートを引きずって、冷たいアスファルトの上を、
ぎりぎりの体力で、歯を食いしばって歩く時代は終了しました。
無理をすることがファッションだと教えられてきましたが、
きっと、そうではない道があるのです。

深夜近くの満員電車、
蛍光灯の光に照らされた、疲れ切った顔が正面の窓ガラスに写っていました。
そこには、リラックスなど、ありませんでした。
そうでないといけないと信じこまされてきたけれど、本当はそうでなかったのです。
太陽の下、明るい顔で、冬の冷たさなど、あたかもないかのように、
重いコートの重圧から解放されて、
軽やかに冬の街を歩きましょう。
ダウンコート、ダウンジャケットは、そんなときにうってつけのアウターです。