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2012年7月23日月曜日

ローゲージニット


暑くなってまいりました。
ということは、秋冬ものについて計画する季節の到来です。
実店舗はまだですが、雑誌などには、もう秋冬の情報が掲載されています。

さて、このブログをずっと読んでいらっしゃっる方々は、
今は流行の変わり目で、特にシルエットが大きく変化している時期だということはおわかりですね。
そのシルエットの変化というのは、スリムでリーンなシルエットからビッグなシルエットへというものです。
それも、ただビッグなシルエットというだけではなく、飾りのないリーンな形から、こんどはデコラティブの方向へ動いています。
新装飾主義のはじまりです。

スリムでクリーンなシルエットが席巻していた、2000年以降、
ニットはどんどんタイトにスリムに、そして糸はどんどん細く、ハイゲージが主流でした。
それは、ハイゲージでないと、スリムフィットにならないからです。
また、スリムにするために、編地もとにかくフラット、スムーズになり、
でこぼこしていたり、装飾はどんどん省かれていきました。
代表的なデザインは、ハイゲージで薄手のVネックやタートルネックのセーターでしょう。
その薄さはあたかもTシャツのようで、下着の上にすぐニットを着て、上にジャケットを着るというスタイルが定着しました。
 その流れが行きついてしまったのは2011年で、
今年はもう完全に折り返しています。
折り返し地点を通過したニットの行き先は、ビッグ、ラフ、デコラティブです。
そして、ローゲージニットの復活です。

ニットがローゲージになってくると、
ニットの表現の幅が広がります。
縄編みや、ポップコーン編みなどのような、ニットならではの飾りや、
カウチンセーターに代表されるような、編み込みによる模様の表現、
また、かぎ針編みの使用による装飾的なモチーフなど、
手作業による糸の装飾的表現を多用したセーターやカーディガンが出てきます。
一昔前だったら、古臭いと思われていた、
あの、おばあちゃんが作ってくれたニットのセーターが、再び洗練されて帰ってきます。
これはニットファンにとっては、大変喜ばしいことだと思います。
だって、今までのニットは、あまりに味気なかったですから。

そこで、私が予想しているのは、編み物ブームの復活です。
80年代にビッグシルエットが流行ったとき、
手編みニットが一時ブームになりました。
手編みのスタイルブックもどんどん発売され、
私も蒲田のユザワヤへ、毛糸選びに何度も足を運びました。
そして、パピーにしようか、それとも何だかよくわからないヨーロッパ製の糸にしようか、
2時間も、3時間も悩んで買って、太い編み針で自分のセーターも編みました。
(「装苑」を見て、誰だったか、デザイナーがデザインした、ピンクのメランジ糸使用のニットを一生懸命編んで、それを着ていったのがデヴィッド・ボウイのライブでした。今考えると、変かも?)

今、一部の方々の間で、手作りで自分の着るものを作ることがブームになっているそうなので、
編み物も、再びブームになるかもしれません。
何か自分で作りたいなと思っていて、編み物が得意な方は、ぜひこのブームの波に乗っていただきたい。
デザインは、80年代よりも、はるかに洗練されています。
そして、そんな手編みのためのスタイルブックも発売されるはずです。

一針一針、糸を編んでいく過程を経験することは、
ただ単に、着たいものを作るという経験ではないのです。
糸と編み針と自分の手という、最もシンプルな道具で、
何もないところから形を作っていく、その過程こそがクリエイティブな行為です。
だから、でき上がったものがうまくできたか、下手だったかは、どうでもいいのです。
何もないところから一つの形を作り上げた、その経験と時間こそが宝物です。

この夏の時期に、スタイルブックを買って、道具を買って、糸を買ってとりかかれば、
冬場には十分間に合います。
何を作ろうか楽しく選ぶこと、どの糸がいいか悩むこと、
その糸がどういうふうにでき上がるか想像してみること、
そしてそれを着てどこかへ行ってみること、
誰かと会っておしゃべりしてみること、
この一連の行為が、ニットがつむいだすてきな1つの物語です。
毎日同じ、繰り返しの、何の変哲もない毎日に、
新しい動きを自分から作るために必要なことは、
あなたが、よし作ると自分で決意すること、ただそれだけです。
本当に小さな一歩が、あなたの世界を変えるかもしれません。
やってみる価値は、十分あると思います。